本態性血小板血症とは
こんばんは。院長の宮下です。
今回は血液疾患のお話です。
あまり聞きなれない病気かと思いますが、本態性血小板血症について書かせていただきます。
この病気の治療薬(アグリリン(一般名:アナグレリド))がどうして効くのか、私たちはその仕組みを研究し、論文発表していることもありこの疾患には少し思い入れがあります。
本態性血小板血症は、主にJAK2、CALR、MPLといった遺伝子に異常をきたし、血小板(血を固める役割)を無尽蔵に造ってしまう病気です。
症状はないことが多く、健康診断や別の疾患で定期通院している際の採血で血小板の数値が高いことが指摘され、診断に至ることが多いですね。
血小板がどんどん作られてしまうと、何が問題か。血が固まりやすくなります。
つまり、最も問題になるのは血管がつまってしまう「血栓症(=心筋梗塞、脳梗塞 等)」となります。
脳梗塞などの発症を契機に本態性血小板血症が見つかることもあります。
少しややこしいですが、血小板が増えすぎると逆に「出血」が問題になります。
これは、血小板の機能に問題を起こすことが原因で、後天性のvon Willebrand症候群といわれます。
頻度は高いわけではありませんが、骨髄線維症や急性白血病など他の血液疾患へ進展することもあり、注意して診ていく必要があります。
診断基準は下記の通りです。
大基準 1.血小板数 45万/µl以上
2.骨髄生検所見:巨核球(血小板のもとになる細胞)の増加
3.他の骨髄増殖性腫瘍や骨髄異形成症候群の診断基準に合致しない
4.JAK2変異、CALR変異、MPL変異いずれかが存在
小基準 クローン性増殖を示す所見を認める
反応性の血小板増加を否定
大基準4項目すべて、あるいは大基準の最初の3項目+小基準いずれか、を満たす。
診断がついたら次は治療です。
適切な治療により健常者とほぼ同等の予後が期待されます。
現状、この病気を根本的に治す治療法はなく、生涯付き合っていく病気という認識が正しいかと思います。一番の目標は、血栓症、出血を起こさないことです。
血栓症の危険性が低い方は何もせず、経過観察をしていきます。
ただ、喫煙者、高血圧、脂質異常症、糖尿病など血栓の誘因となる要素を持っている方についてはアスピリン(いわゆる血液サラサラのお薬)の内服も検討されます。
血栓症の危険性が高い方(60歳以上、血栓症の既往、JAK2 V617F変異陽性、血小板数 150万/µl以上)では、アスピリンとともに、血小板を減らす治療薬(ハイドレア(一般名:ハイドロキシウレア)、アグリリン(一般名:アナグレリド))を併用します。
血小板数が著明に高い場合には前述の通りかえって出血が問題になることがあるので、アスピリンは最初の段階で使用せず、ハイドレアあるいはアグリリンのみでの治療を開始します。
アグリリンというお薬は、実は当初この病気のためにつくられたわけではなく、血液サラサラのお薬として開発されました。ただ、実際にそのお薬を使っていく中で血小板数が減少することがわかってきました。
どうしてかはわからないけれども血小板が減少する、じゃあ本態性血小板血症の治療薬にしてしまおう、ということで今に至ります。
私たちは日常の診療の中でこのお薬を使っていますが、そういった方々で血小板の大きさが大きくなっていることに気づき、これは何か血小板数が減る仕組みを解明するヒントになのではないか!といったきっかけでアグリリンの作用機序についての研究を始めました。
薬の効く仕組みがわかるということは、その薬がどういった方により適すのか・有効性が高いのか、などがわかってくるということです。よりよい医療の提供につながるわけです。
私たちの行った研究がすぐに患者様に還元されるわけではありませんが、将来的な医療の発展に貢献できればとてもうれしく思います。
ということで、本態性血小板血症のお話でした。
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